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僕の恋 .14













邸に入ってから
同じ所を何度もぐるぐる回っているんじゃないかと思うくらい変わらない景色が続き 
案内された和室に座る。


何よりここまで転ばずに辿り着いた事にホッとして
小さく息を吐いた瞬間
視界の端で静かに障子が開いた。






「失礼します」と言う声が静かな室内に慣れていた耳を刺激され
涼やかで凛とした声に
気を抜きかけていたつくしの背中をピンと張らせる。




家元夫人と名乗る目の前の美しい女性と一緒に入って来た総二郎に一瞬目を剥いたが
ここが西門家であることは門にデカデカと書かれていた表札で分かっていたから
どうにか持ち直した。




家元夫人と言う事は、この方が総のお母さん?
お姉さんにしか見えないじゃないか。
総の歳を考えてもうちのママとたいして年齢が変わらないとは思えない。
お金持ちの家の奥様ってすごいわ。





紗英 「牧野さんも永徳に通われているのよね?
お父様はどんなお仕事を?」


つ 「ごく普通のサラリーマンです。」


紗英 「あら…そうなの
じゃあお母様は?
ご兄弟はいらっしゃるの?」


つ 「母はスーパーでパートをしています。
兄弟は弟が1人。来年受験を控えているので
毎日勉強しているらしいんですけど…
勉強が苦手みたいで
弟は都立に行くって言ってるんですけどね
ちょっと心配です。」


紗英 「フフフ…そうなのね。
今はお勉強が苦手でもきっと好きな事や目標が見つかれば
自然と頑張れる様になると思うわ。
男の子は大器晩成でもいくらでも道は開けるもの。
ですけれど、女の子はそうは行かないと思うのよ?
私の考えが古いのかしら……」


総 「家元夫人。
初対面の方に失礼です。」


紗英 「あら…ごめんなさいね?
もうこんなに時間が経ってしまいましたわ。
では牧野さん。お稽古にはこの総二郎がつかせていただきます。
総二郎さん。少し茶室を案内して差し上げて。
私は菊さんと話がありますから。」



紗英に促され、ここで初めて総二郎と目が合った。
学校で何度も顔を合わせていた彼とは別人の様に感じる。
深いけど淡い緑の着物を着て、普段身につけているアクセサリーは1つもしていないのに
これまで見ていた総二郎より何倍も美しく
漆黒の髪の間から覗く切れ長の目に見られていると思うだけで顔が熱くなった。







・・・・・







総 「いつまでガチガチになってんだ?
もう家元夫人もいねぇし、楽にしろよ。
つうかつくしちゃんが菊と知り合いだったとはな。」



総二郎にとって菊は家族よりも近い存在の使用人だったが
彼女に会ったのは菊が西門を去って以来だ。
今日菊が現在勤めている家の嫁候補を紹介しに来ると聞いた時
誰かの許嫁の女などに興味はないが、久しぶりに菊と話せる事を素直に喜び
楽しみにしていた。





なんでこいつが嫁候補なんだよ!!





楽にしろと声をかけても正座を崩さず返事も碌にしてこないこいつに
さっき遠目で見かけた時に感じた嫌な汗が蘇る。





つ 「お、お菊さんは和也くんのお家の使用人さんなんです。
今まではお菊さんに稽古をつけて頂いていたんですが……
お菊さんがこちらを紹介したいとおっしゃって
でも私!次期家元の方にお教えいただける様な立場にありません!
申し上げにくいのですが………今回は先生の方からお断り頂けませんか?」



俯き加減のまま、両手をついて顔を上げると
見上げた先に総二郎の端正な顔が歪んで見える。



総 「はぁ?
なんで俺が一々そんな事しなきゃいけないんだよ。
つうか菊が話を通してここに来たのに俺がお前の稽古を断ったら
菊はどうなる?」


つ 「……どう…って」


総 「菊が見込んだお前の事を断れば、菊の目が間違いだったと言うのと同じだ。
ここで働いていた頃、西門家で菊の信頼は絶対だった。
若い頃から苦労して来たらしいがそれが身を結んだんだな。
だがここでお前が逃げれば、菊が築いてきた立場も信頼関係も全部パアだ。
何十年の苦労も水の泡ってやつだな。」


つ 「…っわ私は逃げるんじゃありません!
ただ……その、私には不釣り合いと言いますか………」


総 「逃げだろ?
最初に菊に話をされた時に断らず、ここに来てビビって
自分じゃ言いにくいから俺に断らせるなんて。
お前ってそんな貧弱な女だったんだな。
ガッカリだぜ。」


つ 「………によ……」


総 「ビビりすぎて声まで出なくなったのか?
言いたい事あるならはっきり言えよ。
こんなデカい邸に住んで
次期家元なんて呼ばれてる俺と話をするのも
『不釣り合い』とか言って逃げんの?
それとも、こんな邸に住める俺とどうにかなりたくなった?
そのアピールならもう遅いぜ。
俺はそんな弱い女は嫌いだからな。」




心のモヤを吹っ切る様に次々に悪態をついてしまったがつくしは黙ったままだ。
流石に言いすぎたかと思い、入り口に立ったままだった総二郎がつくしの前に座り顔を覗き込んだ。





バッチーン!!!






総 「痛ってぇ!!
おま……!」



つ 「黙って聞いてりゃなんなのっ!!
先生だと思ったから下手に出てりゃあ……
確かに私がアンタに代わりに断ってもらおうとしたのは間違ってるわよ!
私が貧弱?弱い?
挙げ句の果てにはどうにかなりたいですって?
アンタみたいに細かい事さっきからネチネチネチネチ言う男なんて
こっちから願い下げよっ!!
それに逃げるつもりなんてない!
私は雑草のつくしなの!!
アンタみたいに温室でヌクヌク育った貧弱男なんかには負けない
バカにすんなっ!!!!!」


ハアハアと肩で息をしながらも
下から睨みつける様な目は決してそらされない。

着慣れない着物がどんな代物か分かっていないつくしは
思いっきりビンタをした後、裾も気にせずドサリと座った。




こいつ。偉そうに啖呵切ってるが
着物の値段聞いたら今度こそ逃げるんじゃねぇか?


だがまぁいい。
この俺に喧嘩を売って来る気合いの入った女なんて居ないし
良い暇つぶしになるだろ。
嫁候補って部分は気になるが、俺には関係ないんだからな。




思いっきりビンタされた頰をさすりながら
総二郎はクツクツと肩を揺らした。



つ 「何笑ってんのよ!
まだ私をバカにしてるねっ。」


総 「否、あれほどビビってたのに
すげえ変わり様だと思ってよ。
雑草だっけ?
そんだけ気合いが入ってるなら本気でやってみせろ。
これまでどうだったか知らねえが、俺が稽古をつけるなら半端は許さねえからな。」


つ 「そっちこそっ!
気合い入れて教えてみなさいよ!
絶対負けないから!!!」




弟子入りって言うより
討ち入りみたいw

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